
京都大学 高等研究院 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス) から傷と光を使って物質にカラー印刷をする研究結果が発表されました。
光が物体に当たった時に特定の色の波長が吸収されたり反射し、その反射した光が人間の網膜に届くことによって、我々は色を認識しています。
この研究では物質に意図的に特定の色が反射するよう傷(亀裂)をつけることで、特定の模様をカラーで映し出すことに成功しました。この技術を応用することで、将来インクなしでカラー印刷ができる日が来るかもしれません。

太陽から来る光や、レントゲンのX線、携帯電話の電波やラジオのFMなどを総称して電磁波と呼ばれており、そのうち人間の網膜で認識できるものを、可視光線と呼びます。
可視光線は380nm~780nmの波長があり、波長が短いと青く、長いと赤というように波長によって色が異なります。
物質によって特定の波長を吸収したり反射することで、その物質の色の見え方がきまります。
例えば、りんごであれば赤以外の色の波長は吸収されてしまい、赤の波長のみ反射して我々の網膜に届きます。
それにより私たちはリンゴが赤いと認識できるのです。

研究チームはこの仕組みを応用し、新しいプリント技術を開発しました。
透明なプラスチックの定規を曲げると、曲げた部分が白く濁っていきます。この現象をクレージングといいます。研究グループはこのクレージングを調整して、特定の光を反射させることができるOM(Organized Microfibrillation: 組織化したミクロフィブリレーション) という素材を開発しました。このOM 技術は、さまざま透明な素材に画像解像度数 14000 dpiのカラー印刷が可能となっています。
ペットボトルに直接印刷することでラベルレスなエコボトルを作ったり、食品ラベルへの印刷で衛星面向上に貢献したりと様々な技術応用が期待でき、研究者のシバニア教授は下記のようにコメントしています。
”「OM 技術は、通気性もあり身体に装着可能な多孔性チャネルへのプリントも可能です。 例えば医療やヘルスケア分野において、肌に装着可能なフレキシブル人工環境器系流路チップやコンタクトレンズに OM テクノロジーを組み込んで、生体情報を直接、あるい は クラウドを使って医療専門家へ送信するといったことが可能になると考えています。」 ”
同研究チームの伊藤 真陽助教は他の素材でも同じようにプリント可能にするべく、研究を進めていくとのこと。
”「OM 法は構造色以外のマテリアルの 性能制御にも役立つ可能性があります。今回私たちはポリマーで OM 技術を実証しまし たが、金属やセラミック素材においても亀裂は起こると予想しています。私たちはこれら のマテリアルでも亀裂の制御ができるのではないかと研究を進めています。」”
インクなどの染料を使わず、素材そのものに傷をつけるだけで印刷できるため、変色や劣化に強く衛星面でもとても優れた印刷技術になると考えられます。
この技術が将来のプリント業界のスタンダードになったとき、かつてのフロッピーのようにインクを懐かしむ日が来るかもしれません。